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大内の御柱物語

重要伝統的建造物群保存地区の改築

重要伝統的建造物群保存地区となった大内宿の茅葺き屋根の残る古民家の改築です。旧下野街道沿いの反対側に住居空間を増築して行くケースが多い中、茅葺きの生活空間の中に光を取り入れた改修を提案しました。

建物概要
用途:住宅
延床面積:139.20㎡(改修部分)(2階建)
構造:木造在来軸組構法
施工:皆川建工
設計:はりゅうウッドスタジオ
総工費:

外観1。

増築された階段吹き抜け。吹き抜けは、家族のダイニングに繋がり、やわらかな自然光が差し込む空間となっている。

2階フリースペース。大胆に開放した窓には、電動のスクリーンも取付けられ、家族のルームシアターにもなる。

外観2

外観3

改築前の外観。茅葺きのコビラと呼ばれる屋根の部分の形状は、既存のままとし、先祖代々の杉の木で構造を組み上げた中に、吹き抜けの空間を増築した。

改修中

下野街道沿いからの外観。

大内の御柱物語
大内宿は日光と会津若松を結んだ旧下野街道の宿場町であった。しかし明治時代になると新たな国道が出来たため、大内宿を通る人々は減少し、他の宿場街と同様に静かに荒廃しつつあった。その後地域住民の努力により、大内宿はかつての姿を取り戻し、観光地として再び脚光を集めることになった。そして平成11年、大内宿は国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定された。住民は、全国でもめずらしい茅葺き屋根の町並みに誇りのようなものをもって観光業を続けている。
本物件は、重要伝統的建造物群保存地区となった大内宿の茅葺き屋根の残る古民家の改築である。
施主はここ20年の間に二回改築をしている。今回は再々度の希望であった。旧下野街道沿いの外観は協定により町並みが守られており、多くの民家はこの街道沿いに民家を生かした店舗をもうけ、裏側に現代の要求にもとづいた生活空間を生み出している。村の茅葺き職人として活躍する施主は、三人の娘の成長と、妻方の母を呼び寄せるために、快適な家づくりに挑戦しようと考えていた。祖父の代に植えた杉林を伐採、木取り、製材し骨組みが建てられた。そして,寄せ棟の片側の小平に屋根を乗せることで、暗い冬に明るい空間をつくる予定であった。
しかし、ある日家族のためにつくる空間と、屋根葺き職人としての気位の矛盾にたいして葛藤が芽生えた。一度くみ上げられた屋根から、垂木と隅木が外された。しかし祖父の植えた御柱を切る直前で作業は止まった。やがて梅雨が過ぎ、夏が過ぎ、柱が緑色に変色する頃、角のように空に飛び出た柱に、伊勢神宮のお札が備えられ作業が始まった。
古い家を守ることだけが文化ではない。古民家は、古い慣習との戦い、気候との戦い、年齢との戦いになる。この作品は完成ではない文化を守るということを背負った個人と設計者の一連の建築行為の物語である。

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