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とみおかワイナリー

震災の土地を再生する

東日本大震災の津波から14年が経過した。富岡町の常磐線から海岸線にかけて広がっていた集落は津波により壊滅し、唯一残されたのが一棟の蔵であった。屋根まで浸水したこの蔵は、2017年に施主・遠藤秀文と建築家・芳賀沼整の手によって瓦を下ろし、屋根を葺き替え、残すという決断がなされた。(新建築 2017年11月号121P 富岡の蔵)遠藤氏は避難先にあった2016年、10名の有志とともに町に戻る意思をかたちにし、沿岸部にブドウの苗木を植え始めた。津波被災地をブドウ畑として活用し、町の新たな産業を育てようという逆転の発想によるものである。現在、とみおかワインのブドウ畑は富岡駅東側の旧居住地に広がる。

芳賀沼整が2019年に亡くなった3年後、耐え残った蔵を拠り所として醸造所の計画が始まった。残すというバトンを私達も受け継ぎプロジェクトに取り組むこととなった。
醸造所にはレストランも併設され、地元住民やボランティアの手により風景作られた畑を主役とするテラスが設けられた。テラス上部には木組による屋根を架け、蔵の意匠と呼応させた。あえて長手方向にトラス構造を配し、南側の畑を臨む設計としている。2階レストランからは河口や海の波、ブドウ畑、常磐線、そして再建された町並みを一望でき、複数の風景が交差する場となる。

醸造所の外壁には、かつて住宅の外壁に使われていた焼杉板を再利用し、過去の記憶を継承している。蔵 の津波により変形した窓はそのまま残され、内部はシアタールームとして活用される予定である。
また、富岡駅側の畑の入り口には、週末ごとにボランティアが集うゲート施設を計画した。屋上からは、皆で育ててきた畑の全景が望める。
私たち設計者チームもまた、この取り組みに常に伴走している。5月には外部キッチンが完成し、ぼんぼり光環境建築・角舘氏と地元大学生による街灯ワークショップによって、これまで明かりのなかった富岡の沿岸部に、ほんのりと光が灯った。

所在地 福島県双葉郡富岡町曲田55番地 主要用途 工場(ワイン醸造所)飲食店 店舗

設計───────────────
建築・監理 はりゅうウッドスタジオ
構造 坂田涼太郎構造計画事務所
設備 エム設備設計事務所
電気 鳳設備設計
照明 ぼんぼり光環境計画
施工───────────────
建築 芳賀沼製作
規模───────────────
1階 240.31m2
2階 146.94m2
階数 地上2階

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